当院の特徴

当院の特徴

治療方針

できるだけ「痛くない、削らない、抜かない」をモットーとしています。

『家族を想うように診る』をモットーにしています。
皆さんは歯科を受診される時、どのようなお気持ちで歯科医院を訪れるのでしょう。「楽しい気分」と思っていただいていればとてもうれしいですが、ほとんどの方は「口の中を見せるのが怖い」「痛かったらどうしよう」「重大なことになっていたら・・・」といった気持ちを多少なりとも抱えておられるのではないでしょうか。そんな「患者さんの不安な気持ちに、きちんと思いを巡らせる」開業以来変わらない星谷歯科医院のDNAです。例えば「痛みへの恐怖を和らげる麻酔」「治療」だけでなく、歯が問題を抱えないようにするための「予防」のご提案、じっくりお話を聞くための診療空間。当たり前のことですが、私だけでなくその他スタッフにもこのDNAが息づいています。星谷歯科医院では患者さんを『家族を診る』ように診察します。そしていつまでも自分の歯でおいしく食べられる、ご友人やご家族と大きな口を開いて笑い合える、若々しい見た目で過ごせる、そんな「豊かでイキイキとした人生」のお手伝いができれば幸いです。

お口の状態・今後の治療等わかりやすくご説明いたします

まず患者さんのお話をお聞きし、検査診断をし、その上で可能な限りご要望にお応えできるような治療を心がけております。それと同時に患者さんにご説明するときはできるだけわかりやすい言葉を使用し、患者さんが納得のうえで治療が進められるようにしております。じっくりご相談頂けるようカウンセリルームをご用意しております。

リラックスして受診していただける環境をご用意しています

当院は全ての診療台を個室または半個室にし、患者さんのプライベートに配慮した治療を行なっております。またスウェーデンの医療機関では一般的な『アート・イン・ホスピタル:病気や心をアートが癒してくれる』の概念を取り入れ、アート作品を院内に積極的に取り入れております。歯科医院らしくない歯科医院、中庭や光の差しこむ開放的な環境で、アートや四季折々の緑を感じながら、緊張をほぐして治療やクリーニングを受けていただければ幸いです。

笑気吸入鎮静法を行っております

当院では「歯の治療がつらい」、「あの歯を削るキーンという音を聞くと体が緊張する」、「なにしろ恐い」といった方に『笑気吸入鎮静法』を行っております。歯の治療に対する不安や恐怖・緊張感を和らげ、リラックスして治療を受けていただけます。お気軽にスタッフまでお申し出ください。

安心・安全な治療体制

歯科用デジタルレントゲン

一般的なX線写真に比べ、被曝量が少なく、体に優しいデジタルレントゲンを導入しております。

歯科用デジタルCT

歯科に特化した歯科用CTを導入しております。三次元の立体画像で、従来のX線写真に比べ、精密で詳しい診断が可能です。

徹底的な消毒滅菌

院内の感染予防対策について

各種ウイルス、肝炎などの感染防止のためオートクレーブという滅菌器を使用しております。また可能な限り使い捨てのものを使用しております。コップ、エプロン、グローブ、注射針は全て使い捨て。直接お口の中に入れるものは患者さんごとに交換。タービンをはじめ、器具の特性に応じた滅菌消毒をしております。
また院内において以下のように様々な感染防止を図り、細心の注意を払っておりますので、安心して治療をお受けください。

院内感染防止に関する指針作成
院内感染予防管理の徹底
スタッフの研修
マニュアルの作成

予防専用ルーム(保険外診療のメンテナンスの場合)

悪くなる前に良い状態の歯を長く保っていただくために『予防歯科』に力を入れております。保険の歯石除去や歯磨き指導に加え、保険外の予防歯科メニューも複数ご用意しております。保険外診療をご希望の方は、治療とは別の空間『予防専用ルーム』にご案内いたします。リラックスして予防処置をお受けください。

詳しくは「PMTC」ページへ

子供の矯正専用トレーニングルーム

当院は子供の矯正治療は歯並びを悪くした根本原因を改善。トレーニングとマウスピースで自然と良い歯並びに導く総合プログラムです。トレーニング専用ルームで楽しく集中してトレーニングを行います。

お子さんが楽しく通える歯科医院

治療を受けるお子さんだけでなく、ご家族の治療についてきたお子さんにとっても、歯科医院での待ち時間は退屈なものです。そんな時間ができるだけ楽しくなるように楽しいおもちゃがたくさんのキッズスペースをご用意いたしております。

キッズクラブ

子供にとって一般的に歯科医院は『怖い・痛い』などのイメージがあり、特に困ったことがなければ行きたくない場所かもしれません。キッズクラブに入会いただくとスタンプラリーやガチャガチャ、保護者の方との連絡ノートで毎回楽しく通うことができ、定期検診お習慣が身に付きます。ぜひご入会ください。

各種医療機関と提携しております

当院では、難治性の歯科疾患や大きな歯科手術を要します治療、睡眠時無呼吸症候群の診断につきましては、各種医療機関をご紹介をしております。より高次の医療機関にご紹介することで患者さんに安心して治療を受けていただく体制でお応えしております。

【提携医療機関】

藤沢市民病院
神奈川歯科大学付属横浜クリニック
鶴見大学歯学部附属病院
村田会湘南台内科クリニック(睡眠時無呼吸症候群)

Family dentist かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療

2017年7月より当院は、『より専門的に予防のための定期管理を行うかかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所』の認定を受けました。

『かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所』とは2016年4月より新たに始まった制度で決められた基準を満たした歯科医院のみが認定を受けられます。2017年9月現在、認定施設は全国約70000件の歯科医院のうち数%のみです。

新制度開始の背景

厚生労働省は日本の保険医療制度を定めている中央社会保険医療協議会から

「50歳以上の人の約半数が歯周病によって抜歯している」

「不定期に通院している人ほど抜歯の本数が多い」

「定期来院している人々は新しいむし歯の発症が少ない」

という報告受けてこれまでの虫歯になったら削って詰める・悪くなったら抜くなど治療中心の歯科医療の在り方を改め、虫歯にさせない、歯を失わないための継続的な検査や定期健診が組織的に行える歯科診療所の要件を定め、2016年4月より運用を開始しました。

施設基準とは

・複数の歯科医師、1名以上の歯科衛生士を配置していること。

・安全対策、偶発症に対する緊急時の対応・医療事故・感染症対策に係る研修を修了していること。

・訪問診療、高齢者の特性を踏まえた口腔機能の向上及び管理、緊急時の対応に係る研修を修了していること。

・訪問診療、歯周病治療終了後の定期的サポートケア、かぶせ物の維持管理、定期的に患者さんにお口の中の状態を説明していること。

・緊急時の対応に必要な体制が整備されていること。

・地域で在宅医療を担う連携体制が整備されていること。

・お口の中で使用する医療機器等について患者さんごとの交換や機器を用いた洗浄・滅菌処理をし、感染症対策を講じていること。

・治療に際しかぶせ物・入れ歯の調整時飛散する細かな物質を吸引できる環境を確保していること。

・医療安全対策に十分な整備がされていること。

・当医院は「医療安全対策に十分な設備」を有することで、患者さんにとって安全で安心な医療を提供するだけでなく、我々歯科医院スタッフの事故や感染を防いでいます。

健康を守るために

お口の健康とは痛くなければいいというだけではありません。「むし歯や歯周病のない状態を保つ」さらに「満足に噛むことができ美味しいと感じる、 発音や見た目にも不自由がない」すなわち生活の質を向上させることであるという考え方に大きく変化してきました。そのためには当院にいらした患者さんの口だけを見るのではなく全身状態を加味し、ときには他の医療機関などとも連携、必要に応じて適切な歯科医療を提供できる歯科診療所が求められています。

これは37年前より当院が掲げてきた『痛くなってから行く歯科医院』から『痛くなる前に行く歯科医院へ』という考え方とも合致するものです。

笑気吸入鎮静法Nitrous oxide inhalation sedation

笑気吸入鎮静法 Nitrous oxide inhalation sedation

笑気吸入法について

リラックスして治療を受ける方法がある

「歯の治療がつらい」、「あの歯を削るキーンという音を聞くと体が緊張する」、「なにしろ恐い」など。歯の治療に対する不安や恐怖・緊張感を和らげ、落ち着いて治療を受けることができる良い療法が「笑気吸入法」です。

笑気吸入法とは

鼻から吸入マスクで酸素に適量の「笑気」という名前の甘い気体を混ぜたものを吸うと、体が心地よく暖かくなりリラックスして治療が受けられます。全身麻酔ではありませんから意識ははっきりしており、治療は普通に受けられ、ドクターやスタッフとの会話もできます。

笑気にはこんな利点がある

注射麻酔と違い、麻酔後の違和感や痛みがありません。
のどや気管への刺激がなく、吐き気や悪心が起こりません。歯の型どりの際、「吐き気」がある方も楽に型どりができます。
すぐに効き、醒めるのも早いので、治療後もすぐ車の運転ができます。
正気は肺から出ていき、体に残りませんから、体に悪い影響を与えません。
心臓への負担が少なく、ショック症状が起きませんので、ご老人にも安全に使用できます。

最新の「笑気吸入法」で安全に快適に治療をお受けください。

笑気と近代麻酔の流れ

笑気についてもう少し詳しく述べたいと思います。それは、笑気(亜酸化窒素)がかなり以前から存在し、今だに使用されている事と、笑気の麻酔作用に関するエピソードが非常に興味深い点にあります。

年表

1772年ジョセフ・プリーストリー(英)による笑気の発見。

1799年ハンフリー・ディービー(英)は、笑気の麻酔作用を発見、自ら吸入し、その結果から"Laughing gas"と命名。

1804年華岡青洲は麻沸散を用いて乳癌の手術を行った。

1842年ロングは頚部腫瘍切除患者にエーテル麻酔を施行したが1849年まで発表しなかった。

1844年ホーレス・ウエルズは自分の抜歯のために笑気麻酔を施行した。(麻酔医コルトン・歯科医リッグス)

1845年ホーレス・ウエルズはハーバード大学医学部にて「鎮痛のための笑気の使用について」と題して講議、同時に公開実験で抜歯のための笑気麻酔を施行したが患者が悲鳴をあげたため完全な成功は得られなかった(後にこの患者は、まったく痛みを感ぜず、いつ抜歯されたかわからなったことを認めている。)

1853年ジョン・スノウ(英)は、皇太子レオポルドの出産に際し、ビクトリア女王にクロロフォルム麻酔を施行し、無痛分娩を行った。

1863年コルトン(米)は、抜歯への笑気使用を普及させた。

1884年カール・コラーはコカインの局所麻酔作用を広く開発。

1892年カール・ルドウィッヒ・シュライヒ(独)は、コカインによる浸潤麻酔を提唱し、局所麻酔法を普及させた。

1910年マッケソン(米)は、間歇流出型麻酔器を開発。

1920年ゲデルは麻酔深度に関する研究、Signs of Anesthesiaの刊行。

1957年ランガ(米)は過去20年間に6万人に笑気アナルゲシアを実施したと発表(Analgesia for Modern Dentistryと題して発表)。

1966年ルーベン(デンマーク)は過去10年間に300万人にNitrous Oxide Analgesiaを実施したと発表。

1968年前述のランガはrelative analgesiaを提唱。

1969年モーンハイム(米)は、20~40%の笑気濃度では完全な無痛は得られないことからanalgesiaという用語は適当ではなく、hypoalgesiaという用語を提唱。

1972年ベネットはモーンハイムの弟子で、彼の後継者となったが、笑気吸入による方法は鎮静を主目的とするために、conscious sedationという用語を提唱。

1972年米国歯科医師会は、吸入鎮静法および静脈内鎮静法を含めた鎮静法を、psychosedationが適当と発表。

1972年久保田は笑気吸入鎮静法を日本に紹介。

1974年健康保険に導入された。

現 在笑気吸入鎮静法として普及している。

エピソード

笑気および麻酔関係領域の簡略な年表を前に記したが、ここでは、笑気の麻酔作用の発見にまつわるエピソードについて、過去の歴史を振り返り紹介する。

酸素発見の1年後の1772年、英国の化学者プリーストリーは亜酸化窒素を発見した。

1799年に同じ英国人のディビーは、自分の智歯の痛みが笑気の吸入によって無痛になったことから、笑気の麻酔薬としての可能性を示唆した研究を発表した、そして、笑気ガスを吸入すると陽気な気分になることから、このガスを「笑気」と命名した。

その後、笑気は医学界から一時忘れられたが、米国においては、笑気を吸入した人を舞台にあげ、陽気になって喜ぶ人をみて、また観衆が喜ぶという、他愛のない遊びとしてもてはやされていた。

1844年12月10日ハートフォードのクーラント紙に次のような広告が掲載された。

一酸化窒素、すなわち陽気ガスとか笑気ガスとかの名で呼ばれているガスの効能を示す大会を1844年 12月10日火曜日に、ユニオンホールで開催します。

40ガロンの同ガスを用意して、吸入希望の参会者には、どなたにも吸ってみていただきます。8人の屈強な男を最前列の席に座らせ、ガスを吸った人が昂奮のあまり、自分や他人に危害を加えることのないように注意しておりますが、これは参会の皆様に、何の心配もなく楽しんでいただきたいからです。実際は、ガスを吸って暴力を振う人はおそらく1人もいないでしょう。このガスが効いてくると、ガスの性格や特色から考え て、笑うか、歌うか、踊るか、冗舌になるか、喧嘩するかです。後で後悔するような言動を、抑制できなくなるまで意識を剥奪することはないようです。

(注意)最上級の紳士の方にしか、ガスは御用立てしません。ガスを使用する目的は、粋な楽しみを味わっていただくためです。科学的な楽しみを味わいたい方には、科学的な楽しみがあり……ガスで味わえる愉悦は、どんな言葉にも表わせません。ローバート・サウジイ(詩人)はかつて、もろもろの天の上 のいと高き天の味わいは、このガスから生まれるといいました。ヨーロッパでも有数の、最も名の知れた人たちに、このガスがどのような効能を及ぼしたかは、フーバー医学辞典を御参照下されば詳細に記述されています。

ガスの歴史や特性については、ガスの楽しみ会開会のときに説明いたします。また、アッと皆様のど肝を抜く二、三の科学実験を楽しみ会の最後に行います。

この楽しみ会一般公開前に、コルトン氏はガスの吸入を希望する女性のための楽しみ会を、とくに同日12時から1時まで行います。入場無料、ただし女性に限ります。一般公開は7時から、入場料は25セント。

「笑気ガス」巡業一座の座長コルトンが開催した「笑気ガス楽しみ会」は満員となり、観客の中に29歳の研究熱心な歯科医ホーレス・ウエルズがいた。ウエルズは新型の義歯について研究しており、無痛のうちに抜歯したいという夢にとり憑かれていた。ウエルズは知人のクーレイという男が笑気ガスを吸入し、陽気に踊ったり、笑っているのを眺めていた。その知人は跳ねまわっている間に、椅子の角に向こう脛を強くぶつけた 。ウエルズはその光景をみて、骨折音が聞こえたような気がして、自分がぶつけたように思わず縮み上ったが、その知人はまったく痛みを感じないかのように愉快そうに踊り、笑い続けていた。この瞬間、ウエルズの心に閃いたものがあった。

興行が終わると同時に、ウエルズは座長のコルトンに笑気の吸入装置を自分の診療所にもってきてもらいたいと頼んだ。翌日、ウエルズは自ら笑気を吸入し、助手のリッグスに自分の智歯を抜歯してもらった。笑気の吸入によって無痛的に抜歯されたことを体験したウエルズは、正気に返り「これは今までにない大発見であ る。私は針ほどの痛みも感じなかった」といって驚いた。そして翌年1845年1月、笑気による麻酔の公開実験をマサチューセッツ総合病院で行ったが、不幸にも失敗に終わった、一人の患者に笑気を吸入させて彼の歯を抜いたのであるが、その患者が悲鳴をあげたからである。後にその患者は、まったく痛みを感ぜず、歯がいつ抜かれたかわからなかったことを認めているのだが、やはり今日のような鎮静法でもなく、笑気のみを全 身麻酔薬として使用したことに無理があったのである。その後、ウエルズは失意の人生を送り、笑気も再び医学界から遠ざかってしまった。かわってエーテルやクロロフォルムによる麻酔が普及しはじめたが、1863年、ウエルズに笑気を提供したコルトンが抜歯を無痛のうちに成功させ、再び笑気の有効性を主張し、その普及につとめた。

その後、多数の功労者によって研究、改善が重ねられ、歯科領域では笑気吸入鎮静法として注目され、今日にいたっている。

笑気は近代麻酔の歴史のはじめに使用されて以来、麻酔力が弱いという欠点にもかかわらず、反面、危険性がきわめて少ないという長所のために、医科領域でもいまだに全身麻酔薬の最も一般的で基本的な薬剤として、今日広く臨床に使用されている。

以上は、私の著書「笑気吸入鎮静法のすべて」からの抜粋ですが、内容についてはユルゲン・トールワルド著(塩月正雄訳)「外科の夜明け」・東京メディカル・センター出版部からの引用です。「外科の夜明け」は、医学を学ぶ者ならば必読の書というべきで、当時、私は時間のたつのも忘れて読み耽った記憶があります。

吸入鎮静法としての歴史

吸入鎮静法

吸入鎮静法は、意識を失わせない程度に吸入麻酔薬を鼻マスクから吸入させる方法です。通常は、20~30%の低濃度笑気を70~80%の酸素とともに吸入させます。

今日では、吸入鎮静法では、すべて笑気のみ使用されています。

笑気吸入鎮静法がわが国に導入紹介されたのは、昭和47年から48年頃で(雨宮、久保田、金子、高北らが鎮静法を日本に紹介)、当時は、笑気アナルゲジア(笑気無痛法)と呼ばれていました。それというのも1940年代から1960年代にかけて、アメリカではランガおよびモーンハイムら、デンマークではルーベンら一部の人々が積極的に笑気アナルゲジアを実施していたのです。

本法が、日本に導入された当初、多くの(あるいは一部の)歯科医は、アナルゲジア(無痛)という言葉にまどわされて、無痛的にすべての歯科治療が行なえると誤解してしまったのです。当時は無痛法とか、迷もう麻酔とか訳されていました。(高濃度の笑気を吸入し、意識がもうろうとしている間に、痛みを与えず処置を行なう方法。)したがって痛みを伴う歯科治療(たとえば抜歯や抜髄)にも局所麻酔を併用しようとせずに、無痛を得ようとして、つい笑気濃度を上げてしまったのです。

その結果、高濃度の笑気を患者に吸入させることになり、患者の意識を消失させてしまったり、あるいは意識を消失させないまでも非常に不快な気分にさせてしまったのです。たとえば80%以上の笑気を吸入させたとしても、笑気は麻酔作用がきわめて弱いので、抜歯などの処置では、痛みを完全におさえることは不可能(かなりの鎮痛作用はありますが)ですし、低酸素状態となって、(空気中には、約20%の酸素と80%の窒素ガスがある)チアノーゼが出現したりして、生命の危険が高まります。痛みに対しては、笑気の吸入で取り除くのではなくて、局所麻酔を使用すべきなのです。

以上のような経験からアナルゲジア(無痛)という言葉を使用するのは問題であると考えられるようになり、1968年、ランガはrelative analgesiaを提唱しました。

一方、モーンハイムは20~40%の低濃度の笑気吸入では完全な無痛は得られないことからanalgesiaという用語は適当ではなくhypoalgesiaという用語を提唱しました。1972年(昭和47年)、モーンハイムの弟子のべネットは、笑気吸入による方法は、鎮静を主目的とするためconsious sedationという用語を提唱し、同年に、米国歯科医師会は吸入鎮静法および静脈内鎮静法を含めた鎮静法をpsychosedationが適当と発表しました。

このような経過からわが国でも精神鎮静法という表現をするようになり、笑気吸入鎮静法(inhalation sedation with nitrous oxide and oxygen)という言葉が用いられています。つまり、現在では、笑気の吸入によって無痛を得ることではなく、低濃度の笑気を吸入させることにより、多少の鎮痛効果(副産物として得られる)と患者の緊張を軽減し、気分の良い状態にさせることを主目的と考えています。

前述しましたように、笑気は古くから存在する麻酔剤であり、その麻酔作用はきわめて弱く、かつ、副作用がほとんどありません。低濃度の笑気を吸入しても、生理的機能の抑制はほとんどなく、安全性のきわめて高いものです。

本法を紹介する書によっては、笑気吸入鎮静法を施行するについては、全身麻酔のトレーニングが必須であると書かれたものがありますが、私は、使い方を誤らない限り、歯学の教育を受けた人ならすべての歯科医が使用してさしつかえないと考えています。その理由の一つは麻酔作用がきわめて弱く、副作用がほとんどない安全なものだからで、そのため現在でも、使用されているのです。

もう一つの理由は、機器の進歩です。現在では、すべての笑気吸入器において、最高50%あるいは機種によっては70%以上の笑気が流出しないようになっています。(したがって患者は30~50%の酸素を吸入することになり、空気中の酸素よりも高濃度の酸素を吸入していることになります。手術後、酸素テントに入っている時と同じくらいの酸素を吸入しています。ちなみに、英国では救急車に50%笑気、50%酸素ボンベが積まれており、トレーニングを受けた消防士が心筋梗塞の患者などに車中でこれを吸入させて病院に移送しているそうです。)

一方、もし酸素ボンベが空になったりすると100%笑気を吸入することになり、その結果、無酸素状態となり生命の危険性が高まりますが、そのような場合、機器が作動して、酸素が流れなくなると、笑気も流れないようになっています。(昭和40年代は、まだ現在のように機器が改善されていませんでしたので、無酸素状態で植物人間になったり、死亡したケースもあったそうです。)もし仮に100%機器を信用できないとしたら、全身麻酔のトレーニングを受けたか否かによって、患者に対する対処の仕方は大きく異なりますので、専門医の方がはるかに安全なのは、言うまでもありません。

さて、そろそろ終わりにしますが、最後に私の主張したいことがあります。それは、「低濃度笑気の吸入による効果は鎮静作用なのか」という点です。「鎮静」という言葉を辞書で引くと「しずまり落ち着くこと」とあります。

笑気の吸入を体験された方はすでに理解されていると思いますが、笑気吸入の効果は前述の1844年の「笑気ガス楽しみ会」にあるような「一種の愉悦的なもの」だと私は思っています。英語ではこのような気分をユーホリックというそうです。今風に言えば、お酒に酔って、多少理性を抑制した「ハイ」になった状態に近いと言えると思います。歯科治療を前提にした笑気の吸入と、教育的あるいは経験としての笑気の吸入は多少異なるものと思っていますが、私が長年、臨床実習で学生に笑気吸入鎮静法として笑気の吸入を教育してきた中で「麻薬よりもいい」と言った学生が何人かいました。つまり私は「笑気吸入鎮静法」という用語は適当ではなく、単純に「笑気吸入法」と称した方が都合が良いと考えています。このように考えると、笑気の吸入法を理解しやすいのです。

笑気の吸入は、むしろお酒を飲んだ時の「気分」に近いと思えます。もちろん笑気とお酒はまったく異なりますが、人によって、お酒も気分が悪くなるので「飲めない」人がいるのと同様に、笑気を吸入すると「気分が悪くなる」人が5人に1人あるいは10人に1人必ずいます。このような人には、ムリして笑気を吸入させることはしません。別の方法を考えればいいのです。私の経験ではお酒を飲めない人はたいてい笑気の吸入をいやがります。反対にお酒の好きな人は笑気の吸入を喜びます。(でも、中には例外もいて、私の妻などはお酒を全く飲めませんが笑気の吸入を好みます。)

以上のことから、当院では、「笑気吸入法」という言葉を用いるようにしています。前述したように笑気の「鎮痛効果」を考慮すると、むしろ「笑気鎮痛法」と表現したいとさえ私は思っています。

笑気は吸入後2~3分すると「効いて」きます。濃度を一定にしていますので、そのままの気分が持続します。鼻から吸って鼻から呼出します。つまり、肺の中で血中に移行するのですが、吸入を止めれば笑気は再び肺から体外に排泄されるので、数分経過すればほとんど醒めます。(文献によれば、吸入を止めて30分後で80%以上排出されますので、帰宅には車を運転しても大丈夫です。)

以上は、雨宮義弘「笑気吸入鎮静法の反省」日本歯科評論 昭和51年6月、および、久保田康耶 他編集「歯科麻酔学」昭和55年第3版 精神鎮静法の項より引用、医歯薬出版(株)および、鈴木長明「笑気吸入鎮静法(笑気アナルゲジア)の覚醒に 関する研究」日歯麻 誌、第2巻第1号 1974年より引用しました。

持病をお持ちの方へFor those with chronic illness

持病をお持ちの方へ For those with chronic illness

歯科治療において、麻酔や抜歯・外科手術などの出血を伴う処置、治療を受ける際の過度の緊張などが、
持病をお持ちの方の全身状態に重篤な影響を及ぼすことがあります。

  • 心筋梗塞・狭心症

  • 脳梗塞・脳出血

  • 心臓弁膜症

  • 先天性の心疾患

  • 不整脈・ペースメーカー・埋込型除細動器

  • 甲状腺機能亢進症

  • 肝疾患・腎疾患

  • がん

  • 骨粗鬆症

  • 喘息

上記は一例です。
記載したもの以外にも全身疾患をお持ちの方は問診票には正確に不足なく記載をお願い致します。現在通院中の方も、全身状態や服薬状況の変化など、必ず歯科医師に報告するようにお願い致します。

高血圧症の方

高血圧症の方は、痛みや緊張により血圧が上昇したり、抜歯後の出血が止まりにくかったりします。そのため、血圧のコントロール状況や抜歯に際して留意点を医科の主治医に確認させていただきます。比較的血圧が落ち着いている午前中にご予約をお取りしたり、当日の降圧剤の服用状況の確認等、安全な治療のための配慮が必要となりますので、まずは歯科医師に必ずご相談ください。

糖尿病の方

糖尿病は免疫反応が悪くなっていたり血流が悪くなっていたりするため、自然治癒が遅れ、感染症にかかりやすく、抜歯後などの傷の治りも悪いという特徴があります。治療中のストレスにより高血糖や低血糖状態に陥ることもあります。食事直前の治療は避け、糖尿病治療薬は忘れずに飲みましょう。歯科医師から指示が出た場合は、抜歯などの外科処置の前に抗菌薬を服用していただくことがあります。まずは歯科医師に必ずご相談ください。また、糖尿病の方は歯周病になりやすいばかりでなく、歯周病によって血糖コントロールが改善しにくくなってしまいます。歯周治療とセルフケアによって、糖尿病と歯周病双方の改善をはかりましょう。

骨粗鬆症の方

骨粗鬆症治療薬の「ビスフォスフォネート系薬剤(BP剤)」や、使用後に、お口の中の病変が原因となり顎の骨が壊死(顎骨壊死)する可能性があります。この顎骨壊死は通常の顎の骨の壊死とは異なり、周りの組織に進行していくことが特徴で難治性です。可能であれば、薬剤を使用開始する前に必要な抜歯や歯性感染病巣の除去を行い、お口の中に骨の露出がない状態に治ってから薬剤を開始するのが理想と思われます。これからお薬を使用開始する方や現在使用中の方は歯科医師にご相談ください。

がん治療中の方

化学療法や放射線療法による骨髄抑制により、白血球や血小板が低下している病態もあり、歯を抜いたり、根の治療をしたり、外科的な処置が必要な場合には、全身の状態が回復した後に歯科治療を行う場合もあります。

喘息の方

ぜんそくのある方は体調が良い日に無理のない内容の範囲で治療を進める事が大切です。発作の起こる時期と無症状の時期が繰り返すので、コンディションの良い時期に予約を取って下さい。また、発作の起こりやすい時間帯を避けて予約時間をとって下さい。普段使用している携帯用吸入薬は持参して下さい。長期的にステロイドを投与されている患者さまは、感染を起こしやすいので必ず歯科医師にお申し出下さい。

Instagram