歯を失った後、また食べられるようにする治療
歯を失った後、何かしなくてはいけないな。でも、食事は反対側で噛めばできるし、奥歯だから見た目に気にならないし、そのままにしてしまっているけど大丈夫かな。そう感じている人は多いのではないでしょうか。歯がなくなってしまったままにすると起こる、お口や体の変化については『歯を失うということ』でお話しさせていただきましたのでご参照ください。入れ歯は歯を失った後も、また食べられるようにする治療です。とはいえ入れ歯とはどういうものなのか、どんな種類があるのか、本当に噛めるのか。様々な疑問をお持ちだと思います。こちらでは入れ歯について、見た目や噛みやすさによって作られる種類、お手入れの注意点までお話します。
どんな症例にも幅広く対応出来る『入れ歯』という選択肢
歯を失ったときの対処法は大きく分けて入れ歯・ブリッジ・インプラントの3種類があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。当院では患者さんにきちんと説明し、患者さん自身に選択していただくようにしています。詳しくは『歯を失うということ』をご参照ください。
もし私自身が歯を失ったら、間違いなくインプラント治療を選びます。
しかし残念ながらインプラント治療も万能なわけではなく、インプラント治療が適さない場合があります。例えばインプラント手術への不安を抱いている方やアゴの骨の状態が思わしくない方・全身疾患を持っている方の場合は制限があります。その点、入れ歯であれば、幅広い症例に対応出来るという特長があります。入れ歯は最も古い歴史を持つ治療方法ですが、他の治療法と同様に技術は日々進歩し新しいものが提案され続けています。当院はその新しいものを常に採用し患者さんに提供しています。
入れ歯は『異物』です
入れ歯は『義歯』とも呼ばれます。その名の通り治療に使う素材は全て本物の歯とは違う造り物です。入れ歯を入れさえすれば何でもバリバリ自分の歯と同じように食べられると思ってらっしゃる方もおられますが、そうではありません。総入れ歯(総義歯)の場合、天然の歯に比べ噛む能力が30%程度だと言われています。義足や義手と同じで、自身の歯には敵いませんし、ある程度噛めるようになるには必ずリハビリ期間が必要です。
当院ではこの入れ歯に慣れる練習を大切にしています。治療が終わり、入れ歯を付けたら終わりというわけではなく、むしろそこから先が重要と考えます。長く入れ歯を使っていただくため、適切なアドバイスと術後の調整をさせていただきます。
入れ歯の現実その2
それではなぜそんなにも入れ歯で困っていらっしゃる方が多いのでしょうか。「痛い、噛めない、はずれる、しゃべりづらい」に関しましては保険で作られた入れ歯でも調整することで快適に使用できるようになりますのでご相談ください。しかし稀に保険の入れ歯をどんなに調整してもお悩みが解消されない場合があります。それは顎の骨の量や形であっ たり、お口の中での入れ歯の感じ方が人それぞれ違うところにあります。最善を尽くしてもそこに限界があることも事実です。もちろん保険の範囲内でぴったり合う入れ歯が叶えばそれに越したことはありません。
しかしなぜ限界があるのでしょうか。それは日本の保険の制度上、健康保険を用いた入れ歯に使える材料が細かく取り決められています。一方、保険の適応外で入れ歯を作る場合はこのような制約がありません。ですのでぴったりと合った入れ歯や、銀色のバネが見えない入れ歯など患者さんのご希望に合った最適な入れ歯を作ることができるのです。治療費はすべて患者さんの自己負担になってしまいますが、こうした前提のうえで「保険外」で作る入れ歯と「保険」の入れ歯の違いについてお伝えしていきます。
入れ歯の種類
入れ歯は総入れ歯と部分入れ歯の2種類に分かれます。これは保険の入れ歯も保険適応外の入れ歯も共通の分け方です。
上顎と下顎、それぞれに歯が1本も残っていない場合は、総入れ歯になります。
保険診療で受けられる場合は、素材がすべてプラスチック(レジン)となります。それ以外の素材を希望される場合は、保険の適用外となります。
ご自身の歯が1本でも残っている場合は、部分入れ歯になります。
部分入れ歯の構成は、自分の歯の代わりとなる人工歯と、粘膜の上に乗る入れ歯の歯茎(義歯床)、これらを残っている歯に固定するためのクラスプ(留め具)からなります。
保険適用の場合の素材は、人工歯と義歯床はプラスチック(レジン)でクラスプは金属となり、その他の素材をご希望される場合は、保険適用外(自由診療)となります。
メリット |
費用負担を抑えられる 主な素材はプラスチックですので、破損が生じても修理がしやすい |
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デメリット |
使用できる素材が決まっている 義歯床の素材はプラスチックなので臭いや汚れが吸着しやすい 長期間の使用で変色やすり減りが起こりやすい 製作するうえで一定の厚みが必要となり、それが強い違和感となることもある 総入れ歯の場合は、プラスチックの面積が広がるため、食べ物の味や温度がわかりづらくなることがある 保険の制度上、保険診療で作りなおす場合は作製日から6カ月以上空けなければならないルールがある |
保険診療のような細かい規制がないので、素材や構造などを工夫し、患者さんの要望に近づけることができます
メリット |
様々な種類から選べ患者さんの要望に近づけることができる 保険の入れ歯がもつ問題をカバーし、使い心地や見た目を追及することができる |
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デメリット |
全額自己負担となるため費用が大きくなる 保険のもの、保険適応外のものに関わらず入れ歯を長い間使用していると顎の骨が痩せやすい傾向にあり、その際は入れ歯の作り変えが必要となる |
快適な入れ歯『金属床義歯』(保険適応外)
保険外となりますが快適な入れ歯(金属床)についてご紹介いたします
口の中はとても敏感で、髪の毛が1本入っても不快感があるほどです。 このため、保険外の入れ歯で使用する金属が主体の材料の場合、保険のものに比べ最大で約1/6の薄さで作ることが可能です。そのため違和感が少なく発音もしやすくなります。
保険のプラスチック(レジン)の入れ歯を入れると、温かい・冷たいといった食べ物の温もりをなかなか感じづらくなってしまいます。特に総入れ歯や、大型の部分入れ歯の場合、歯茎や、上顎を覆う面積が増えるためそういったお悩みを抱える方は少なくありません。食べ物の温もりは味覚に大きな影響を与えます。このため保険外の入れ歯では温もりを感じられる材料(熱伝導率の高いもの)を使用します。
コバルトクロム
金属の特性として薄く仕上がり違和感が少なく、熱伝導性に優れているため、熱い・冷たいといった感触を感じやすくおいしく食事ができる、もっとも一般的な金属床義歯です。
チタン
上記の金属特性に加え、アレルギー反応を起こしにくいという利点が加わった入れ歯です。(ただしチタンにアレルギーのある方は使用できません)また軽くて丈夫というチタンの特性をいかしコバルトクロムに比べ、より薄く作ることができます
金属床の総入れ歯
金属床の部分入れ歯
「 美しさ」を追求した入れ歯『スマートデンチャー』(保険適応外)
部分入れ歯にして、大きく笑うことをためらうようになったというお話をよく耳にします。部分入れ歯になってかめるようになったけど、バネが他人から見えるので恥ずかしい。仕方ないので、お出かけの時を入れ歯は外してでかける。作った私たちとしてはとても淋しいことですが患者さんのお気持ちは解ります。一般に部分入れ歯は、自分の歯の代わりとなる人工歯と、粘膜の上に乗る入れ歯の歯茎、これらを残っている歯に固定するためのクラスプ(金属の留め具)からなります。場所によっては、このクラスプが見えてしまい他人に入れ歯だと気づかれてしまうことがあります。スマートデンチャーは通常金属のクラスプが、ピンク色のアームになっていますので入れ歯をつけていることが他人に気付かれにくくなります。部分入れ歯の見た目のコンプレックスから解放され、とびきりの笑顔で笑っていただきたい。それを実現できる美しい入れ歯が『スマートデンチャー』です。
スマートデンチャー
保険の入れ歯
スマートデンチャー
保険の入れ歯
近年、お口の中に装着している義歯や詰め物など、歯科で使用される金属が原因となり、顔・全身にアレルギー症状を発症する方が増えています。先ほどもお話ししましたように一般的な部分入れ歯は必ず金属のクラスプがつきます。スマートデンチャーは金属を使用しませんので、金属アレルギーの方はもちろん、今は金属アレルギーでなくても今後が心配な方も安心して使用していただけます。
*強度を高めるための金属で補強したスマートデンチャーをご希望の方はご相談ください。
さてスマートデンチャーの一番の特徴である見た目の美しさについては前述いたしましたが、その他にしっかりお伝えするべきことがあります。確かに目立たないため、お出かけ用の入れ歯としては良いと思いますが、入れ歯の本来の目的であるしっかり噛め、機能できるかどうかは別問題です。スマートデンチャーに用いられる樹脂は強度がけっして強いわけではないため、左右の奥歯にまたがるような大型の入れ歯には不向きです。したがって『しっかり噛める入れ歯』をご希望の方には全くお勧めいたしません。また修理や調整が難しい点においても長期間ずっと快適にお使いいただくには限界があります。どんな入れ歯にも利点があれば欠点もあります。その点をしっかりご理解いただいた方にのみお勧めしております。
また特性を理解していただいた上で、スマートデンチャーにできるだけ強度をお望みの方には、金属で裏打ちしたスマートデンチャーのご用意もありますのでご相談ください。
入れ歯のお手入れ方法
入れ歯の特性を知る
入れ歯は乾燥すると変形し痛みの原因となります。
入れ歯は落下などの衝撃に弱いため注意が必要です。
入れ歯を清潔にする
毎日、毎食後就寝前に入れ歯の清掃をしてください。
入れ歯を外してから清掃します。自歯が残っている方は必ず歯のお手入れも忘れずに行ってください。
入れ歯の清掃は水で洗いながら『入れ歯専用ブラシ』もしくは『歯ブラシ』で行います。この時洗面器の中で清掃すると入れ歯を床などに落とすことが少なく安全です。
入れ歯の清掃に歯磨き粉は厳禁です(入れ歯に細かなキズができ汚れや細菌が付きやすくなります)
入れ歯の中に侵入した細菌はブラッシングだけでは完全に除去できません。週に1~2回は入れ歯洗浄剤を併用することをお勧めします(逆に入れ歯洗浄剤だけでは全ての汚れを除去できません。しっかりブラッシングしたのちに使用することではじめて洗浄剤の効果を発揮します。)
就寝時は入れ歯をはずす
就寝時の口腔内は特に細菌が繁殖しやすいため、入れ歯を装着したまま寝ると細菌が繁殖し歯茎に炎症を起こします。
一日中噛む力を受け止めた歯茎はとても疲れています。就寝時はしっかり休ませましょう。
理由があって就寝時に入れ歯を外せない場合は、それ以外の時間帯で外す時間を作りましょう。